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 遠景を見ているとき、私たちはその「景色」の細部の対象には触れることができない。「景色」における知覚は、「見る」という行為によってそのほとんどが担われている。「景色を見る」ということは、景色のなかの細部の、それぞれの対象の「在る」という実感を宙吊りにしながら、知覚世界の中のイメージを構築し続ける行為なのかもしれない。
 灯台は、そこに存在するということに重要な役割を持っている。灯台の灯が船舶に届くとき、その遠くの光は地点を持ったひとつの存在として認識されながら、海上から陸へと印をつける。20海里先まで届くその光は、イメージや光の認識における存在の不確定な性質に反して、「在ること」を突き抜けているように思える。
 静岡県御前埼灯台にのぼり、そこから見えるものをあらゆる画角や構図で撮影し、約400枚の写真として収集した。水溶紙を支持体にした写真を水に浸すと、紙の繊維とインクは水の中でイメージを構築するための素材になる。指先や筆を使い、水中で写真群を溶かし合わせる。写真に写った均質的な御前埼の景色をトレースしつつ「灯台にのぼった」という経験と記憶の中で反芻する表象的イメージの「御前埼の景色」の全景を構築しようとする意識で写真イメージをアブストラクト(再編)する。
 写真は支持体と情報を均質的に結びつけ、触覚性をもたらしながら物質とイメージの〈在る/見る〉の距離を近づける。写真に身体を介入させながらイメージをアブストラクトする行為で、「景色を見る」ということの触覚的なリアリティを呼び起こしたい。
技法:水溶紙にインクジェットプリント、フォトアブストラクティング / 素材:水溶紙、顔料インク / サイズ:1510×4300mm / 2023
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